かけらたち


景色のかけら


NOTHING LIKE YOU

いつかどこかに置き去りにして来たもの
想い
それを振り返る道には そんなものはもうどこにも無くて
諦めるように元の道を歩き出した時
ふっと寄り添ってくるもの
想い

いつだってそんな風だった

+

+

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ある曇りがちな午後
食事もとらずにただぼうっと
ベランダの外で煙草を吸っている君
ビル郡のすぐ上の空をずっと眺めて
静かに座っている

何を見ているの?

クレーン

クレーン?

君が指差した先を見ると
ビルの上にクレーンがある
何も不思議なことは無い
建設中に使ったものがそのまま残っているだけのもの

取り残されてるんだね
もう 自分の仕事は終わっているのに
役目を終わってもそのまま
独りで取り残されているみたい

君は とりわけ寂し気でも無い
事務的な声でそう言って
新しい煙草に火をつけた
僕はもう一度クレーンを眺める
ビルをたてる役目を終えて
次の仕事があるわけでも無く
ただその身が朽ちるまで
もしくはビルが無くなるまで
あのまま留まり続ける
そう思えば何だか
寂しくも 虚しくもある

君はあのクレーンの姿に自分を重ねていたの?


翌日
久し振りにすっきりと晴れた午前中
洗濯日和と精を出す僕
天気に誘われて出かけていった君は
お昼ご飯のサンドイッチとコーヒーを買って来て
嬉しそうに声をかけて来た
デジタルカメラで撮った映像を差し出し

クレーンの新しい仕事

と微笑んでいる



空に雲を掛けるのが
クレーンの新しい仕事と言いたいらしい
相変わらずのロマンチスト と
僕も微笑む

先に食事をとり始めた君に
プリントしようか?と聞いてみる
にっこり笑って頷いた



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