33.山吹(わずかにオレンジみをおびた黄色)


鮮やかに 香る…

ぼんやりと自転車をこぐ

ペダルは重く 気分も同様

見飽きた 大学近くの道並みも

こんな時は鈍くしか見えない

脳の機能は 大半が遮断されて

これからのバイトの時間を

穏便に過ごすためのプログラムを構築中

視覚と反射神経の機能だけが生きている

行きなれた道を通るにはそれで十分

何度も繰り返されて 回路は万全だ

多少の変化はあれど あまり変わらない日常

何かを忘れている気がしても

それすらも気付かなければ

残るのは昨日とそっくりな今日と

今日とそっくりな明日だけだろう

… …?

突然

眠っていた頭が 振り起こされる

そう あまりに唐突に

不意打ちのように香った 甘い匂い

金木犀の 淡い香

見渡せど 山吹色の花の姿は見えず

ただ 独特の香だけが残っている

煙草の匂いに紛れても 鮮やかなそれ

気がつけば、どうしてか分からないまま微笑んでいた

ただそれだけのことに 気分が良くなる

そんな自分に笑いたくなったのだろう

些細な幸福感

そんなもので充分なのだ 人には

飩色の空に 青空を見つける

それだけで あの香の魔法で

明日は今日よりマシだろうと

思える自分をいとしく思った



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