36.勿忘草


忘れないで どうか

勿忘草
あの淡いブルーに願う
どうか忘れてしまわないで

Forget me not.

この花にまつわる悲しくも美しい伝説がドイツにある。
 愛しい恋人のために、水辺に咲く青い花をとろうとした青年が、川に落ちて流されました。
流れに飲まれながら青年は、その恋人に花を投げ、「私を忘れないで」と叫び、
その青年の最後の言葉が花の名前になった。

死んでも覚えていて、なんて、そんなことを言うつもりはない。
だって、人は死んだらお終い。残せるものなんて在りはしない。
僕はそう信じている、だから生きているんだから。

でも、もうすぐ僕は、この地を離れ、他の街に行く。
そこはここからとても遠くて、簡単に訪れることは出来ない。
そうなってしまった後、ここで出会った人の中から、僕が消えてしまうのが悲しい。
死ぬならいい、諦められるから。っていうか、消えてしまうんだから。
でも、まだ生きている僕のこと、忘れられるのは悲しい。

身勝手だね。知っているよ。でも願うんだ。
忘れないでいて、ここで生きていた僕のことを。
ここで生きたという事実を持ってまた僕は、生き続けていくんだから。

ここでのことは、僕の大切な思い出になる。
きっときっと、一生涯忘れることはない。忘れることなんて出来ない。
ラ・ヴィ・アン・ローゼ、この思い出が在るからきっと生きて行けるから。
この先なにがあっても、投げ出さないと信じられるから。

だから、忘れないでいて、どうか、この僕のことを。

そしてカミサマ、この僕からここでの大切な記憶を奪わないで。

Forget me not.

どうか どうか



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