44.若草


極度の鬱がやってきた
またか、と思って、盛大にため息をついてやる。

いい加減にしてほしいよ、毎度毎度。
こんなとこにかかずらっていられるほど、暇じゃないんだからさァ…。
あー、もうホント、勘弁しろや〜。

時が過ぎて鬱は去る
唐突に
予想できないほどあっさりと

月を遠く高く真上に見上げる。
お高くとまって、いい気なもんだ。
まあるい月が南中するのは真夜中。
確かに真夜中、人気の無い住宅街。

通り過ぎながら耳を済ませば、いつもは聞こえないものが聞こえる。
街灯の灯りに頼って視線をあげれば、いつもは見えないものが見える。
寒いけどマフラーも帽子も手袋も脱いでしまえば、いつもは知らない風を感じる。

ああ、こんな、簡単なことでいいんだ。

俯いてばかりいる顔をあげて、ちょっと一歩下がって、深呼吸して周りを見渡せば、いろんなことが分かる。
こんな簡単なことで、新しい発見が在る。
気分も軽くなる。

本当、何でこんな簡単なことに気づかないでいたんだろう。
損だよなあ。
まあ、気づけなくなるからこそ、鬱なんだろうけど。

鬱が去った時の気分は、えも言われぬ爽快感。
これが味わいたいから鬱になる、なんてことはないだろうけど。
ないと願いたいけど。

でも、変わらず信じている。
どんなに気分が重くなっても、周囲の状況が辛くても、
俺はきっと耐えて行ける、耐えた先に光が見える。
新しいことが見つかる、今いっそう楽しい気分になれる。

楽天的なだけかなあ。
自分に甘いだけかもね。
でもいいさ、うじうじしてるよりはましだろう?

明日はどんな一日になるか、楽しいことが在るといい。
そうやって、希望を持つこと、自分に期待すること。
それってきっとやっぱり、悪いことじゃないって思うよ。

鬱が去った俺に、恐いものはないってね!

明日すぐに春が来るとは思えないけど、
ほら木々を見て御覧?
きっと今頃、春に向かって、ちょっとずつ萌える準備をしているはずだ。
だから俺も、見習わなきゃね。
冬が去りそして春が来る。冬は春の準備期間だよ。
だからも少し頑張って、きっと、明るい春が来るから。

だって俺はまだ、花知らぬ若草。
どんな花を咲かせるか、決めかねてはいるけれど。
大丈夫、迷うことも必要なこと、咲くまでは。

だから見ていてね、期待を込めて。



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