49.生成色(手を加えない自然のままの繊維の色、黄みがかった白)


出会った頃の君は 何も知らない あどけない少女で
いつも明るく笑っていた
素直で 感情がすぐに顔に出る 分かりやすい感じ

人見知りはするけど 顔見知りになれば懐いてくる
甘えもするし 腹を立てたり悔しがったり
見せる表情はとたんに豊かになる

情に脆くて 人を疑うことを知らなくて
いつかひどい目にあうんじゃないかと心配するぐらい
でもそれこそが多分君の魅力

君が君のまま いつまでもけがれなく生きていて欲しい
愛らしいキャラクタ かわいい人
そのままでいて欲しいと 確かに僕は願ったのに…

ちょっとした出来心で 僕は君を貶めようとした
君の笑顔が崩れるところ 君が人を疑うところ
そんな時君は どんな表情をするのだろうと
見てみたくなったから

だから
君を特別だと思っている振りをして
僕が君にとって特別だと思い込ませた

それはとても容易かった
それから二年 考えうる最悪の方法で
僕は君を裏切った

君が泣いた
僕はこれまでの全てがこの瞬間のためだったと告げた
「気がすんだ?」と君は問いかけた
満足だと僕は答えた 「それならいいわ」と彼女は笑った
「これまでの時間が、わたしの涙が、無駄でなければそれでいいわ」
涙に濡れた彼女の笑顔はそれまでで一番きれいだった

僕のことはもう信じられないかと聞くと
君は少し考えて「いつだって疑っていた」と言った
意外な答えで僕は驚いた 僕は疑われているとは思わなかったからだ
「ないはずのものをあると言われるほど、人は不安になるもの」と君は言った
その通り僕は不安だった 負けないように僕は 君は変わったと言った
すると君は真面目な顔で どこか寂し気に「わたしが変わった
ように見えるならば、それはあなたが変わったせい」と言った

僕は混乱した 戸惑った
君は僕の前から歩き去った
追いかけようとしたけれど 足下が崩れ去ったようで
僕はその場にへたり込んだ

そして笑った 声の限りに大きな声で
笑った 笑い続けた 狂ったように


※無断転用・転載を禁じます。