61.クリムゾン(ケルメスという虫で染めた濃い赤)


パリ パリ パリ … …

木にくっついた 白いかさぶたのような斑点の正体は虫
直系2mm程度のその白い虫をつぶすと 赤い液が出る

血の色のようなそれ

小さなかさぶたを剥がすような痛みに囚われた

心が … …

ねえ 思い出したんだ

僕が一番怖がっていたこと

それは その人に嫌われることじゃなくて

もっと身近な 親とか友達とか

そんな人たちに 白い目で見られることだったんだね

…一年ほど前に起きた出来事のほとんどを

ほんの少数の友人以外に語らなかったのは

そんな

汚い自己防衛のためだったんだ

許してくれとは言えない

今さら 今頃になって気づくなんて

そして それを恐いと思いながら

何故 やめることができなかったんだろう

愚かな自分 悪かったのは僕

その時から知っていたし

非を責められることはなんともない

そして 軽蔑の目で見られることもそれは

当然の報いだったんだ

でも願わくば許してほしい こんな僕を

自分にとって都合の悪いことを

すっかり忘れていた自分に腹が立つけど

それは

当事者にとってみれば

僕なんかよりもずっと腹立たしいことだろう

客観的に見たって 呆れるほど情けなくて

それを思い知ってうちひしがれても

同情の余地無し だよなあ…

それは我が侭な 狡い願い

汚い 狡い 意気地なし

弁解の余地もない

何より それを隠していた自分が 何よりも狡い

ただ嫌われたくなくて 自分を守りたいがために

隠した 隠蔽した

自分の中に閉じ込めて

表面ではいつも通りかわいい自分を演出して

最悪だね 知ってる

知っていて もしくは無意識に

汚い 狡い 意地悪い

断罪者の判定は guilty

やたらきれいな言葉を使いたがるのは

自分の醜さを思い知っているから

隠してもにじみ出るそれを

必死に繕っている

滑稽 その言葉に尽きる

何も知らないまま バレていないと思い込んだまま

演じ続けたピエロ 悲劇のヒロイン

でも もうだめ

潮時だね

報いは 絶対的な孤独と絶望

もう一度 全てを一からやり直しても

間違えない自信は皆無

僕は汚い狡い人間

それを許容してくれなどと

どうして願える?

悔いているわけでは無い

どうしたって 僕が選んだ結果であることは否定できない

溶けて無くなって 消えてしまいたいけど

不便だね

そうすることも出来ないんだ

全ての人から僕の記憶を消して

なにもなかったことには もう出来ない

ならば

この先はもう少しマシに生きていくって

それしか残されていないみたいだ

呆れられる虚しさも

無視される寂しさも

嫌われる痛さも

ゼンブ

持ってこれから先に進むしかない

もう2度と間違えないように

柔らかい木の肌に残る

赤い斑点

乾いた血のようなその色に

祈る 誓う

もう2度と

狡い自分にはならない

でも 願わくば どうか

どうかそれで許して下さい

過去をなかったことには出来ないから

この先の未来しか無いから

どうか

どうか



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