63.砂色
ジワリと沈み込む感覚。砂の上に腰を降ろす。
足を投げ出して、ずっと波を見ていた。
少しぬるい砂の温度、僕の体温よりも、少し暖かい。
波は寄せて返す、繰り返し。
もう夏は終わり。
クラゲも出てきてるから、海で泳ぐ人はいない。
ようやく、浜が静かになる。
でも、今日は拾い物もお休み。ただ海を見てるだけ。
ゆきつもどりつ。
波はひとつひとつ形は違う、勢いも違う。
なんだか、呼吸のようだ。
目を閉じて、耳を澄ます。
寄せて返す波音に、意識して呼吸をあわせる。
それだけで、なんとなく分かってくる。
僕がここにいる意味。
無理なんかしなくていい。
ましてや苦しくて辛い修行なんかも必要無い。
悟ることだって必要じゃ無いんだ。
ただ、目を閉じて呼吸をするだけ。
救いとか、そう言うものが欲しいんじゃない。
たった今ここにいることが救われている証。
だって、 ほんの些細な条件の違いで全てが変わってしまうのに。
それでも僕はここにいる。
それ以上何もいらないと言えばもちろん嘘なんだけど、
今のところはこれで満ち足りている気がするから。
波に濡れた砂がキラキラ光る。
見れば厚い雲の隙間から夕日が顔をだしていた。
これが答えだと分かる必要も無いんだ。
立ち上がる。
服についた砂を払った。