78.ルビー
もう誰も 君にはかなわないから
鮮やかな軌跡
君は不思議
こんなにも鮮烈な印象を
僕の瞳に遺しておきながら
いざ思い出そうとすると
もう君の顔がどんなだったか
思い出せやしない
思い出せるのはただ
遠ざかる後ろ姿
それすら
暗闇の中に消えていく
その姿を捜しても
君はもうどこにもいない
その名を呼ぼうにも
呼ぶべき名を僕は知らない
君は遠く過ぎ去る
ただ鮮やかに
その
紅玉のような唇だけを
僕の記憶に遺して
叶うならば
もう一度振り向いて
その顔を見せて
雪のように白く
熱の無い陶磁器のように
つややかな肌
大きく見開かれた
灰みがかった瞳
さえた青のターバン
淑やかに光る真珠のイヤリング
少しくすんだ色の
着古された上着
そんな君のパーツを組み合わせて
僕は君を描こう
少しも似てはいないけれど
願いを込めて君を描こう
君がもう一度
僕と出会って
振り向いてくれるように
紅玉の唇で
僕の名を囁いてくれるように
君が僕のものになるように
思いを込めて君を描こう
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