79.サファイア


終らないで 夏休み

冷蔵庫から 取り出す

冷えた葡萄

きれいに洗って 水滴がキラキラ光る

おいしい葡萄のことを

紅玉とも青玉とも喩えるから

ひと粒とって食べると

それはとても甘くて 少し酸っぱくて

おいしいけど ちょっと切なくなった

もうひと粒とって食べる

大学の夏休みは9月いっぱい

長い休みももう数日を残すのみ

あーあ

どうして9月は30日までしかないんだろう

31日まであればいいのに

あと1日 あるかないかで

大分違うのになー

やりたいこと まだ半分も出来てない

やらなきゃいけないこと 全然やってないよ

2月じゃないだけまだましかなあ…

葡萄を食べながら考える

あれもやりたかった これもやりたかった

あれもやらなきゃいけなかった これもやらなきゃいけなかった

次々浮かんで うんざりする

葡萄はおいしい それが救いのようだった

楽しい時間はあっという間に過ぎる

葡萄みたいだ あんなにたくさんあったのが

もう数えるほどになっている

寂しいキモチ 切ないキモチ

でもなにより 惜しむキモチ

しょうがない 葡萄は食べたらなくなるし

時間は過ぎるばっかりで 巻き戻しは出来ないんだ

最後に残った ひと粒の葡萄

どこかのロマンチストが

葡萄は最後のひと粒が一番甘いと言っていた

夏休み きっと最後の一日はいい日になると良いな



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