82.翡翠
春の宵
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海からの生温い風が吹いている
あまり心地よくはないけれど
気分は上々
煙草が染みたけだるい身体
指の先 燃えている朱
「ねえ、煙草を吸いながら、翡翠の蝶を見る方法を知っている?」
悪戯な天使が降りてきて
そんな問いかけを投げかける
知っているよ でも
もう少しゆっくり 一服させてくれないかな
時折強く吹く風が
天使の羽根を通り抜ける
金色の髪をなびかせて 天使は微笑む
そうその微笑みを もう少し見ていたいから
ねえ天使 君から見ればこの僕は
まるで煙草みたいに はかなく
この命を燃やし尽くす存在なのかな
そんなにキレイに笑ってないで 何とか言えよ
煙草の煙は風に巻かれて
夜の闇に消えて行く
「翡翠の蝶を、見る方法を知っている?」
知っているさ 見せてあげよう
決してまばたきをしちゃいけない
さあ 僕の顔をじっと見つめていて?
.
僕はゆっくり
顔の前に煙草の火をかざす
天使と僕が見つめあう間に
煙草の朱で 蝶を描く
.
さあ 目を閉じて
そしたらほら まぶたの裏
翡翠の蝶が 見えるだろう?
目を閉じたまま微笑む天使に口付ける
そのとき 煙草の
最後の灰が落ちた
それは
春の宵の幻想