92.真珠色
バイト帰り
仕事後のおいしい煙草を吸いながら
自転車で街を抜ける
夜の闇は
今日は霧がかかって
白くぼんやりしたものだった
空も
街の光を反射して
仄白く霞んでいる
そんな薄闇の中
ふっと視界の端にアレが見えた気がして
思わず振り返る
そんなことを三回ぐらい繰り返した
否
もっと何度も
アレだと思ったものは
街灯とかマンションの部屋の灯りとかで
肩透かしを喰らった気がして
苦笑する
まるで自分は
夜空にそれがある事を
疑っていないらしい
良く考えれば
もう沈んでしまったはずだと
分かるのに
それを知っているのに
振り返ってしまうのは
そんなにも
焦がれているのか
望んでいるのか
アレを
月の光を
ほの暗い海の底から
ひと粒の真珠を探すように
暗い夜の闇に
月を探す
ああ
そうだ
分かった
探しているのだ
自分は
月の姿を無意識に
分かって
微笑む
魅入られている自分
月に
虜になっているんだ
そう思ったら
笑うしかない
笑うしか
ないじゃないか