いつもこの身の傍らにあった。
透き通る白磁の肌を持った彼女。陽に焼けない体質なのだといつか話してくれた。
腕時計が見つからない。
中学の頃から腕になじんでいたそれ。
君が僕の時計と言ってくれた、型の古い腕時計。
この身から離すことなどないのに。
君が離れていくなど考えたこともなかったのに。
待ち合わせ、いつも時間ぎりぎりになってしまうから、時計を気にしながら走っていた。
ある日、久しぶりの逢瀬に遅れてきた僕に、君がこっそりかけた保険はほんの僅か腕時計の針を進めて置くこと。
最近まで時計の針はほんの少し進めたまま、僕の遅刻癖もあの頃のまま。
ただ違うのは、左手に腕時計がないこと。
目覚めても左隣に君がいないこと。
君のかけた保険に気づかなかった内は、少し早くなっている腕時計を信じて遅刻も少なくなった。
時間通りと微笑む君が間違いなく愛しかった。
腕時計が早められていることに気づいてからは、油断して、これくらいなら大丈夫、と結局遅刻ぎりぎりになっていた。
腕時計がちょっと早いから大丈夫。
…君は優しいから大丈夫。
まだ時間があるのだと油断していた。
いつだって君は優しいままだと勘違いした、愚かな僕。
腕時計はまだ見つからない。
ふとしたとき左手を見てはため息、…行方不明の時計ともう隣にいない君。
時計が見つかったら、何か変わるだろうか?
君が、戻ってきてくれたりするだろうか?
あるはずの無いことばかり、考える。
君の、美しい白い肌、少し体温の低い身体。
もう、抱き締めることは叶わないけど。
左の手首には、君にはかないやしないけど、腕時計の痕、その部分だけ白い僕の皮膚。
君の腕が絡まることがなくなった、寂しい左腕。
今はまだ、忘れることが出来ない。
無くした時計も、その代替品も探すことなんか出来ない。
まだ、愛しているから