99.飴色(濃いオレンジ、キャラメル)
懐かしい 懐かしい
それは セピア色の想い出 追憶の象徴ガタン ゴトン ガタン ゴトン … …
ぼんやり していた 不思議な感覚
これはそう 突然夢の途中に 出会ったような
どこか見覚えのある 郷愁に似た想いガタン ゴトン 電車は揺れる 景色が通り過ぎて行く
このへんの人は 地方鉄道の事を「電車」って呼んで
旧国鉄の事を「汽車」って呼ぶ
そんなことを 思い浮かべていたガタン ゴトン 電車は走る
私は電車の一番後ろの席にいて 誰もいない運転席の窓越しに
遠ざかる景色を見ていたガタン ゴトン …キキッ ギィー … 各駅停車の電車は ちょくちょく止まる
窓越しに見ていた 赤いランドセルの女の子がふたり
遮断機があがった線路の真上に 足をそろえて立っている
電車は動きだし みるみるうちに ふたりから遠ざかるガタン ゴトン ガタン ゴトン … …
ああ そうかそうか 私にも経験がある
幼い頃 電車が通り過ぎたばかりの線路に乗ると 電車の振動が伝わってきた
そんなことが楽しくて よくよく線路で立ち止まっていたっけガタン ゴトン 電車は走る 昔を乗せて 今を乗せて
西に見えるは夕暮れの空 空耳に聞こえたのは懐かしい唱歌
夕焼けこやけで 日が暮れて …
赤いランドセルの女の子たちはもう 家に帰っただろうかガタン ゴトン 田んぼの中のカーブを曲がる
緩やかな上り坂 途中で汽車とすれ違って 緩やかな下り坂
着いた駅では反対進路の電車と待ち合わせ
ゆっくり電車は動き出す 急がず慌てず走り出すガタン ゴトン ガタン ゴトン … …
田舎道を追い抜いて 夕暮れと競うように電車は走る
もうすぐ家が近づいてくる
夢が覚めたような 少し淋しい 少し切ない ガタンゴトン 揺れる音ガタン ゴトン キキッ ギィー プシュー さあ ドアが開いた
電車が通ったすぐあと 線路の真上に立ってみる
そこにはいつまでも 想い出の音がしていた