設定:実の姉弟
男の名前:和哉
女の名前:炯
さっきプリントを申し出た写真が出来上がった
「はい、写真」
「ありがと」
嬉しそうに姉は微笑むと お礼のつもりか
お茶飲む?といいながら 台所へ向かった
姉と二人きりで家にいるのは ずいぶん久しぶりのことだ
大学に四年間通っていた彼女は
今年 地元に戻って就職した
勤め先が近いこともあって
家族と一緒に暮らしている
姉が大学に行く前は
こういうことは良くあった
幼い頃に父は亡くなり
母は一日中家を空けて 働きに出
家のことや 僕の世話は
全て姉がやっていたから
もっとも 姉はそれほど
家事が得意なわけではないので
炊事も洗濯も自分でやった方が早いことに気付いてからは
家事の最低限のことはできるようになっていた
四年経って 姉が変わったと言えば
髪がのびたことぐらいしか思い付かない
のんびりしてて 変わり者
これが社会人なんて ちょっと
信じられない気もする
なにより信じがたいのは
こんな姉に 彼氏がいること
姉弟でさえ扱いがたいと思うのに
赤の他人が 良く付き合ってられると思う
高校の頃も
友達すら満足にいなかったのに
でも 事実
姉が社会人なのも
付き合ってる人がいることも
「和哉」
突然声をかけられて 驚いて姉を振り向いた
すると 彼女はティーカップを持って苦笑している
ひとつを僕に渡し もうひとつに口をつけている
僕も一口飲む
昔から 紅茶だけは彼女がいれる方がおいしかった
「そういえば、母さん、どうしたの?」
「え?ああ、義父さんとデートだって」
「ああ…今日、記念日なのね」
姉の言う通りだった
再婚した母の 今日が結婚記念日なのだ
まさか 姉がそれをちゃんと知っているとは思わなかった
とぼけた様子ながら 不意に核心をつくのは 姉の得意技だ
「カズ、羨ましいのね、二人のこと」
可笑しそうに 姉が僕を見ている
そう こんな天気のイイ休日に
どこにも出かけず 家でのんびりしているのは
先週彼女にフラれたからだ
朝からうきうきして義父と出かける母を見て
羨ましいと 思ったのも本当だった
しかし それを姉に指摘されるのは 気に食わない
顔が 不機嫌そうになっているのが自分で分かった
「姉さんだって、」
姉にしたところで、今日は休日なのに
家でのんびりしてるのは
さては彼氏とけんかでも?
言い返したつもりで聞いてみたが
余裕綽々に彼女はにっこり笑うだけ
「こんな日もあるから、会いたい気持ちが続くのよ」
そう言った彼女は 微笑んだまま
雲の写真を見つめていた
何だかへそを曲げてるのもつまらなくなって
僕は最後のため息を着いて 紅茶を飲んだ