煙草を吸い始めるようになって
しばらく経つ
夜のベランダ
明るい街を見下ろしながら 煙草に火をつける
そんなとき 妙に感傷的
馬鹿馬鹿しいとまで思うほど
紅く灯る火
流れて行く人と車
浮かんでは消えてゆく思考(おもい)のよう
霧に霞む景色
ぼんやりと靄がかかった頭の中
現実とは違う空間の中に切り離された気がして
孤独のようで 自由のようで
『煙草一本分の猶予』
いつか 好きな作家が
ホームページの中で書いていた言葉
ああ こういうことかな
この灰が落ちたら 戻らないと
指が熱くなるまで フィルターギリギリまで
名残り惜しむように なるべく長く
もう少しだけ この 曖昧さの中に
明日はきっと来て きっと今日とすごく似ていて
同じ早さで進んで行くかも知れないけど
特別な一日なのだと 気持ちを持てるように
だからもう少し この煙草が長かったらイイなと思う
灰を落とす 灰が落ちる
ため息を一つ
さあ 戻ろうか
月が見えた
バイト帰り
無意識に見上げた空に三日月
ビルの間に浮かんでいた
もう そんなに日が経ったっけ
部室の窓から街の方を見て
十六夜の月を見つけた
妙に嬉しい
ドキリとするほど 綺麗で
その時先輩が言った言葉が いつまでも離れない
『月に殺されるなら構わない』
同感
月か桜に殺されるなら 悪くない
きっと あいつも恨まないだろう
嘲られている気がしても ご機嫌な俺
色とりどり 夜の心情